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長崎家庭裁判所 昭和47年(少)1506号 決定

少年 S・G(昭二八・一二・二六生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は

(一)、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年九月二四日午前七時五〇分頃、長崎市○○町××××番地先道路において、自動二輪車(長崎○×××号)を運転し

(二)、運転免許を取得していないが、日頃から自動二輪車を反覆継続的に運転しているものであるところ、前(一)掲記の日時場所において前掲記の車両を運転し、△△△△町方向から××町方面に向け時速約六〇キロメートルで進行中、進路左前方三一・六メートルに同一方向に向かつて進行中のミサ帰りの徒歩集団を認めたのであるから、このような場合、反覆して自動車を運転する者としては、右集団の動静に注意し、状況によつては警音器を吹鳴するなどして前方歩行者に警告を与えながら、用心深くその側方を通過するようにして、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、上記同一速度のままに漫然と自車を進行せしめた過失により、自車が右集団と衝突不可避の状態にあるを五・一メートルの至近距離に接近してはじめて気づき、ハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが及ばず、自車左側部分を、右集団の一員として歩行中の○本○男(四三歳)に衝突せしめ、同人を路上に転倒させ、よつて同人に対して全治約三週間を要する頭蓋骨骨折、右大腿部挫創などの傷害を負わしめ、

(三)、右(二)掲記の日時場所において、掲記の交通事故を発生せしめたのに、直ちに自車の運転を停止して負傷者を数護する等、道路交通法所定の必要措置をとらず、そのまま逃走し

(四)、法定の除外事由がないのに、昭和四七年九月二四日午後三時四五分頃、長崎市○○町×番××号所在の酒蔵「○」二階の自己の間借先において刃渡一九・二センチメートルの匕首一振を所持したものである。

(法令適用)

(一)につき 道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号

(二)につき 刑法第二一一条前段

(三)につき 道路交通法第七二条第一項、第一一七条、第一一九条第一項第一〇号

(四)につき 銃砲刀剣類所持等取締法第三条、第三一条の三第一号

(処遇の理由)

調査の結果によれば、少年は、昭和四五年一〇月、軽二輪車を無免許で運転したかどにより、家庭裁判所に送致され以来今回まで、約二ヶ年間に無免許運転で検挙され、家裁送致をうけること実に八回、その都度関係諸機関によつて訓戒を受けたほか家庭裁判所の審判によつて、検察官送致や保護観察の処分に付せられたが、毫末も反省自粛するところなく、市街地をフルスピードでとばして楽しむ群走二輪車集団「○ャ○」のリーダー格におさまつてきたこと、少年に対する保護観察は軌道にのることなく経過してきていること、少年は過去に自動二輪車の運転免許試験を五回位うけたが、毎回技倆未熟の故をもつて不合格となつていることおよび少年の家庭は青果等をあきなつており、その経済状態は豊かであり、両親とも少年に対して極めて甘い態度をもつて接していることが各認められる。

以上の事実を背景に少年の前掲記の犯罪事実について少年の処遇を考えるとき、少年はすでに同種事案について保護観察に付されたが、少年に対する右保護観察が所期の目的を達していないこと前認定のとおりであるから、本件事案について、少年を保護観察に付することは意味なく、また仮令少年を検察官に送致しても、その結果ありうべき罰金刑のごときは、実質的に両親によつて完納処理され、少年に対して、その今回の犯罪事実についての罪悪感を喚起する作用を果すことなく、少年は、相変らず所謂「走る凶器」的存在でありつづけるおそれが多分にある。従つて、かかる状況下にある少年に対する処遇としては、むしろ少年を主として道路交通法違反の少年を収容する少年院(松山市所在の交通短期少年院)に収容し、そこで、少年に対し長期に亘つて矯正教育を施すを相当と判断し、少年審判規則第三七条の二第一項所定の意見書を付したうえ、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項後段により主文のとおり決定した。

(裁判官 矢ヶ崎武勝)

参考一

昭和四七年(少)第一五〇六号

処遇意見書

長崎少年鑑別所長殿

下記少年の処遇に関しては、この記録を充分に参照されたうえ、できれば送致(中等)少年院に交通短期少年院(松山少年院)を指定されるよう特段の御配慮をお願いします。

少年 S・G昭和二八年一二月二六日生

昭和四七年一〇月二〇日中等少年院送致決定

昭和四七年一〇月二〇日

長崎家庭裁判所

裁判官 矢ヶ崎武勝

参考二

昭和四七年一〇月二〇日

長崎家庭裁判所

裁判官 矢ヶ崎武勝

松山少年院長殿

勧告

本籍 ○○市○○町××××番地

住居 ○○市○○町×番××号○○方

S・G

昭和二八年一二月二六日生

右少年に対する当庁昭和四七年(少)第一、五〇六号業務上過失傷害、道路交通法違反および銃砲刀剣類所持等取締法違反各保護事件について、本日少年を中等少年院に送致する旨の決定をしましたが、これは貴院で実施している交通関係の短期教育訓練を受けさせるのが相当であると認めて行なつたものですから、その処遇方針に則り一般保護少年と分離して矯正教育を施すとともに入院後原則として三ヵ月をもつて仮退院の措置をとられるよう少年審判規則第三八条第二項により勧告します。

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